ヨードうがいと甲状腺
世間ではインフルエンザが大流行しています。私も12月頭に風邪をひいてしまい、感冒後咳嗽(風邪の後の長引くせきのこと)に悩まされていました。年始に実家に帰省した際、親が心配してヨードうがい薬を買ってきてくれました。その際、「なるほど、ヨードうがいか」と思ったので、記事にしてみようと思います。
ヨード(ヨウ素)と甲状腺
ヨウ素は甲状腺ホルモンの原料ですが、多量に摂取すると、甲状腺ホルモンの合成が抑制されます(Wolff-Chaikoff効果)。通常はヨウ素の過剰摂取が続くと、Wolff-Chaikoff効果が減弱して(escape現象)、甲状腺ホルモンは顕著な低下には至りません。しかしバセドウ病や橋本病、亜急性甲状腺炎の既往、甲状腺の手術の既往などをお持ちの方は、escape現象が起きにくくなり(K Markou, et al. Thyroid. 2001;11(5):501-10)、甲状腺機能低下症に至ることがあります。従って、これらの甲状腺疾患をお持ちの方は、大量のヨウ素を継続的に摂取するのは避けたほうが良いと考えます(ただし、バセドウ病において例外的に大量のヨウ素を治療に用いることがあります)。
ヨード(ヨウ素)が多い食品
海藻類(特に昆布とその加工品、ひじき、わかめ)が非常に多くのヨウ素を含みます。
詳しくは、環境省の下記ホームページをご参照下さい。
https://www.env.go.jp/chemi/rhm/h29kisoshiryo/h29kiso-03-07-16.html。
ヨードうがいとヨード誘発性甲状腺機能低下症
ヨウ素の耐用上限量(健康障害のリスクがないとみなされる習慣的な摂取量の上限)は3mg/日とされています。しかし1日3回ヨードうがいする方の尿中ヨウ素排泄(摂取したヨウ素の90%以上が尿中に排泄されると言われています)は5mg/日以上だったという報告があり、習慣的なヨードうがいによって重篤な甲状腺機能低下症に至った症例の報告もあります(K Sato, et al. Internal Medicine. 2007;46(7):391-95)。
ヨードうがいと風邪予防
うがいをしない群、水うがいをする群、ヨードうがいをする群で、上気道感染症(風邪のこと)の発症率を比較したところ、水うがいをする群ではうがいをしない群と比較して発症率が有意に低く、ヨードうがいをする群はうがいをしない群と比較して発症率に有意差はなかったとの報告もあります(K Satomura, et al. Am J Prev Med. 2005;29(4):302-7)。
しかしそもそも、うがいに風邪予防効果があるかについては、それほどエビデンスはありません(一方で、手洗いが風邪予防に効果的だというエビデンスは比較的豊富です)。
まとめ
以上から、甲状腺疾患をお持ちの方は、習慣的にヨードうがいをするのは避けたほうが良いと考えます。
では私は実家に帰省した際にどうしたのかというと、、、せっかく親がヨードうがい薬を買ってきてくれたのに、それでうがいをしないのは感じが悪いかと思い、使わせていただきました。習慣的にヨードうがいをするのでなければ、それほど過敏にならなくてもよいかもしれません。