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甲状腺機能低下症は、症状から高精度で予測できるか?

甲状腺機能低下症は、冷え、むくみ、便秘、皮膚の乾燥、抜け毛など、様々な自覚症状を引き起こします。
一方で、甲状腺機能低下症に特異的な自覚症状(他の病気にはなく、甲状腺機能低下症でしか出現しない症状)はほとんどありません。
特に冷えやむくみを自覚される方は多く、インターネット等で検索して、「ひょっとすると自分は甲状腺機能低下症なのでは」と思われる方は多いかと思いますが、症状が特異的でないために、「いや、やっぱり違うか」と受診には至らないケースも多いと思います。

今回は、甲状腺機能低下症の自覚症状と、実際に甲状腺機能低下症である可能性について調べた論文について紹介したいと思います(Allan Carle, et al. Eur J Endocrinol 2014; 171: 593-602)。

甲状腺機能低下症と診断された群と、そうでない群で、甲状腺機能低下症と関連がある可能性があると報告されている34項目の症状からなるアンケートをとり、症状の頻度の比較を行っています。
甲状腺機能低下症と診断された群は、TSHの中央値が54.5であり、これはそこそこ重症の甲状腺機能低下症です。
34項目の症状のうち、実際に頻度の差があった症状は以下の13項目でした。

症状 甲状腺機能低下症の群(%) 甲状腺機能低下症ではない群(%) 陽性尤度比 陰性尤度比  
倦怠感 81 41 1.96 0.33  
皮膚の乾燥 63 29 2.16 0.53  
脱毛 30 9 3.50 0.76  
便秘 39 17 2.29 0.74  
気分の不安定さ 46 20 2.23 0.68  
前頸部痛 16 4 3.50 0.88  
嚥下困難 29 11 2.59 0.80  
めまい 24 11 2.23 0.86  
息切れ 51 29 1.74 0.69  
動悸 35 20 1.70 0.82  
落ち着きのなさ 33 17 1.97 0.81  
咽喉の違和感 36 17 2.09 0.78  
喘鳴 27 12 2.20 0.83  

一般的に、陽性尤度比が10を超える場合、もしくは陰性尤度比が0.1を下回る場合に、その所見はその疾患かどうかを見分けるのに有用だとされます。
つまり、上記の13項目の症状は、どれも単一では甲状腺機能低下症を見分けるのにそこまで有用ではないということになります。

そこで、上記の13項目の症状うち、あてはまる項目の数で、甲状腺機能低下症を見分けられないかを調べられました。
あてはまる項目が10個以上であった場合、甲状腺機能低下症であることの尤度比は6.29と高くありませんでした。
あてはまる項目が2個以下であった場合、甲状腺機能低下症でないことの尤度比は1.3前後と低い結果でした。

つまり、甲状腺機能低下症かどうかをうまく見分ける単一の症状はなく、また複数の症状を組み合わせてもうまく見分けることはできないということになります。

症状の原因が甲状腺機能低下症であれば、治療の手段があります。
また、検査のコストもそこまでかからず、検査の負担もせいぜい採血で少し痛みがあるぐらいです。
従って、少しでも甲状腺機能低下症かもと思ったら、受診をして白黒をつけるのが良いのではないかと思います。