糖尿病が「重症」であるとは?
先日、両親との会話の中で、
「HbA1cが10%だと、インスリンを打たないといけなくて、透析が必要なんじゃないの?」
という話になりました。
これは非常によくある勘違いですが、同時に非常に教育的な間違い方だなあと思いました。
今回は糖尿病が「重症」であるとはどういうことかをお話します。
糖尿病の重症度は、以下の3つの視点を元に考えます。
①インスリン分泌能
血糖を下げる唯一のホルモンである、インスリンを分泌する能力を指します。
これと対となる概念が、インスリン抵抗性(=インスリンがどれだけ効きづらいか)です。
以下のグラフのように、インスリン抵抗性は、糖尿病を発症する前から上昇してくることが多いのですが、これ単独では原則として糖尿病の発症には至らず、インスリン分泌能が低下して糖尿病の発症に至ります。

(G S Tobin, et al. Int J Clin Pract 2012; 66(12): 1147-57より改変)
上記のグラフのように、インスリン分泌能は経時的に低下していくので、年々血糖コントロールは難しくなっていきます。食事も運動も薬も変えていないのに、年々血糖値が上がって、薬が増えることを不思議に思っている方もいらっしゃると思いますが、それはこのためです。
従って、インスリン分泌能が低下していると、糖尿病は重症であると言えます。
②血糖値
血糖値が非常に高くなると、喉の渇き、尿量が多い、水分摂取が増える、体重が減るなどの、古典的な糖尿病の症状が出現します。更に高血糖になり、高度の脱水を伴うと、高血糖高浸透圧症候群といって、意識障害となることもあります。一方で血糖値が正常化すると、これらの症状は改善します。
従って、血糖値(または、2か月の血糖値の平均であるHbA1c)が高いと、糖尿病は重症であると言えます。
③糖尿病の合併症
HbA1cが高い状態が持続すると、糖尿病の合併症(網膜症、腎症、神経障害)は進んでいきます。
これらの合併症は、その進み具合を示す分類があります。
従って、糖尿病の合併症が進行していると、糖尿病は重症であると言えます。
このように、糖尿病の重症度を考えるときは、どの視点で見ているかを明らかにする必要があります。
冒頭の、「HbA1cが10%だと、インスリンを打たないといけなくて、透析が必要なんじゃないの?」というのは、②の血糖値については重症だと言えそうです。
しかし、①のインスリン分泌能が落ちているとは限りません。糖尿病を発症してから短い人は、HbA1cが高くても、インスリン分泌能が保たれており、インスリン治療が必要でないことがあります。しかし糖尿病を発症してから長く、インスリン分泌能が落ちた結果としてHbA1cが高いなら、インスリン治療が必要なこともあります。
③の合併症については、短期的にHbA1cが高くても、合併症は進まないので、透析は必要になりません。一方で、長期的にHbA1cが高い期間があれば、合併症が進行して透析になることもあります。
よって、「HbA1cが10%だと、インスリンを打たないといけなくて、透析が必要なんじゃないの?」は誤解だということが分かります。
逆に言うと、糖尿病のある方の状態を考えるにあたって、この①~③の視点は重要だということになります。糖尿病の専門医は、常にこれらの視点を元に、糖尿病のある患者さんを拝見しています。
